H様は既に土地をお持ちで、南からの日差しをたっぷり取り入れた明るい家を建ててくれる会社を探していました。しかし、いくつも訪れたハウスメーカーから、「それはできない」と断られ続けていたそうです。
その土地には高度斜線の制限があるせいで、北側を高くすることができず、南側にしか階段を配置できないという理由からでした。しかし、南に階段を配置してしまっては、十分に日差しを取り込めない。「どうしても階段を北側にしたい」という希望を叶えてくれる会社は、なかなか見つかりません。
さらに、H様には「南の日差しを取り入れつつ、外からの視線を遮りたい」「夫婦それぞれの収納スペースが欲しい」といった要望もありました。
全ての希望を叶えることは、この土地では不可能なのか…。途方に暮れる中、ご縁があり、キャナエル設計に相談に来てくださいました。
限られた土地・厳しいルールの中で、いかにご希望を叶えるか。相談を受けた私は、変則的な階段を使うことをご提案いたしました。
「階段を途中で分けてしまいましょう。1階の階段は北側に配置し、2階には南向きに0.5階分の階段を設けます。」
設計や施工が難しくなる為、普通は階段を途中で分けるように設計しません。ただ、それは決して不可能なことではありません。
2階の階段下を開放することで、1.5階分の吹き抜けができます。これにより北側の高さを抑えて高度斜線の制限をクリアしつつ、南側の光を取り入れられます。また、ブラインドをつけることで、外からの視線もカットできます。
さらに、0.5階分の階段の両脇には、ご夫婦それぞれの収納空間を配置。この収納空間は階段脇のスペースを有効活用できる上、高さを制限することで、部屋が増えたことによる固定資産税もかかりません。
H様は、これまでに2度の家づくりを経験されており、今回が3度目でした。お引き渡しの時、言ってくださった言葉が心に残っています。
「1回目、2回目とハウスメーカーにお願いしました。ただ、今回はどうしても叶えたい希望が沢山ありました。谷平さん、ハウスメーカーではここまで夢をカタチにできなかった。」
他社で家づくりをされた多くの方から、「叶えられなかった希望」のお話を聞くことがあります。その多くは、「理論上は実現できるけど、設計・施工が大変だから『できない』ことにされた」といった内容のものでした。私はそんなお話を聞くたびに、なんともやるせない気持ちになります。
できることは、できないと言わない。
手間をかけてできることはやる。
そして、お客様の希望をいっぱいいっぱいに詰め込んだ設計がしたい。
私が独立をしたのは、そんな工務店をつくりたかったからです。
H様からいただいたお言葉は、そんな私の想いが一つ実現できたことを実感させてくれるものでした。